月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

予言

君みたいな子でね 君に似ててね
高そうな深いボルドーのゴルフウェアを着ながら
男は私をベッドの縁に座らせて 
穏やかに 女の子にするように 優しく語り掛ける


出会った時にはもう30歳を過ぎていてね
ガリガリで 何この子と思った 君みたいにね
話を聞いたら 好きだった男に振られて結婚しないと
毎日ビール飲むの 5本も6本も


私は下戸だ 飲み屋で知り合ったこの男がよく知っている


営業ができるから年600万あげてたの 
でも夜酔っぱらうと思い出すのか
思い出すから酔っぱらうのか
「川に飛び込む」って電話がかかってきてね
受話器から聞こえる音でどこの川かわかったの


川ってせせらいだり濁流になったりするものね
疲れで苛立った私は心の中で毒づく
彼の待っている部屋へ早く帰りたい
サービス業している彼は明日が休日で
私達はこの男が悔しがるほど愛しあうのだ


でもね、男は軽く溜息を吐く
40歳過ぎたら親の介護が始まって
自分から会社を辞めるって言ってきたんだ
よろしく頼む、って僕は友人の会社に預けた
事務仕事しながら介護で大変みたいだよ


「みたいだよ」にあざとい小芝居を感じる
他人事のような


男は横にいる私の手を握る
「うちの会社の事務やらない?月18万で」
「もう結婚するの。彼氏に子供がいたから長くかかったけど。
 あなたについてきたのは、その資金のため」
提示された金額にむかついた私は見栄を張る
彼は奥さんに二人の子供の親権を取られたまま、
さみしくて私といるだけだった


「ふうん」ねっとりとした声で男は前に虚ろな視線をやる
「君が泣いて終わるたぐいの話だね」


あれから私もずいぶん歳をとった。あの男の最後の台詞
不吉な予言だったとまだ脳裏を過る