月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

終わり

あなたがコンビニでヘアワックスを買って私の部屋に置いていくのを 喜んで見ていた
あなたが段々私から距離を置いていくのを 漠然と感じだした
引き留める術は何も 何も持っていないから
いるだけで人を惹きつける あなたみたいな横顔も 声も ふるまいも
あなたが私の部屋に来ることは二度とないと慣れるのに ひどく時間がかかった
こうしてあなたのことをすらすらと書けるようになるのに これだけの年月が
今はただ 成人したあなたの娘が無事で笑っているように
今はもう 老いを感じてはじめているだろうあなたの心を明るく照らしすように
今はそう すべては微笑みとともに

望むように

地方から出てきたおぼこい親友は
「私はね、気分よく暮らしたいだけなんだよ。景色のいい所で、パン屋さんで働いて」
その夢を叶えるべく
大学生になって夜はスナックで働き卒業までに500万円を貯め
海外を転々としたあげく
40歳を前にエジプト人と結婚し男の子をもうけた
Brave eyesと呼ばれる強い目をして
私と友達はともに瞼を二重に整形しても細く腫れぼったい目で
「私ね、顔のいい人が好きなんだよ」と言っていた友達の
旦那さんの顔を見に行く前に「アラブの春」が起きた


けれど友達は逞しく生き生きと望むような選択をした
子供の両肩を後ろから手でつかんで明るい笑顔を浮かべるお母さんになった
イスラム教に改宗して 白い布であつらえた民族衣装を身にまとって
夢は叶えるもの 人生は楽しむもの
晴れ晴れとした笑顔の画像に屈託はない


対して私は傷つかないこと、無事で安全に暮らすこと それが人生というもので
夢はなく 男の人を好きにならず 
私 あなたが 羨ましかった
望むように生きて 欲しいものは手にいれて
好きに生きていいのだとあなたを通してそんな生き方もあるのだと


亀のように硬い甲羅に身をひそめ
野良犬のように人間に怯え
無事に死に逃げすることだけを願う私にとって
あなたは夢でした

レクイエム

目が覚めたらね
「書こう」って心の声が聞こえたの
とてもきっぱりと
二年前にふと思いついて三百枚半月で書き上げた
私とあなたと……「アンダーグラウンド」なことをする仲間達
それぞれに不幸で 悲しくて 優しくて
書き上げた物語は私に憑りついて
この二年まるで何も書く気がしなかったのよ
読後はただの救いのないえげつないカンジに仕上がっていて
正直忘れていたわ
でもね
突然「書こう!」って心の声が私をベッドから起き上がらせたの
スキャンダラスだから書くんじゃないわ
あんなこと平成の初め頃の泥臭い辛気臭い話だと思ってる
ただね あなた
二十年近く経って 膿を吐き出して副作用に苦しんで
それでも突然書きたいと思ったの
あなたの明るい笑顔を 陽気だったり泣いていたりする姿を
世間知らずであなたが引き合わせる人にいちいち新鮮な気持ちで興味を示した私を
優しかった同年代の女性達
子供がいて
お料理が上手で
自立していて
不幸で
20代ゆえの生の煌めきを私はこの手でとらえたいと思うの
それがもう私以外この世のどこにもいなかもしれない皆への愛よ
皆の生きて笑って泣いて怒っている姿がどんなに美しかったか
それは私のレクイエム