月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

芸術からの追放

……27歳のあの夏の朝を迎えてしまったせいで
私は壊れて自分を見失ったのだと思っていたが
心の奥底にパンドラの箱が隠されていたのだ
醜い側として扱われること
頭の鈍い人間として迷惑がられること
それゆえに職場から逃げざるを得なかったこと
社会的立場を失った私が「仲間」から外されたこと
まだ未来があると必死に箱に納めて鍵をかけていたそれらのものが
見知らぬ男に突然連れ去られるという「理不尽」によって
私の心の外部へ解き放たれてしまったのだ
それは初めての「自分が悪い」という呪文が効かない出来事だった
十年もの間パンドラの箱から飛び出た得体の知れない様々な傷が
それを契機に私を乗っ取り自暴自棄という形で暴れ狂わせたのだが
当時はそんな精神構造どころか 自分が何をしているかもわかっていなかった
「芸術」に憧れそれらを直視して書けるなど嘘くさい話である
さらに長い年月を経て記憶を再び閉じ込め風化させられるようになり
ようやく平穏な生活を取り戻すことができるようになったのだから
「芸術家」がサバイバーのパンドラの箱を開けて表現したつもりになっても
「実地の体験」には遥か及ぶべくもない
私はあの夏の朝を契機に「芸術」から出入り禁止を宣言されたのだ
それを理解するのにこんなにも長い年月を費やさなければならなかった
箱の中に何が入っているのか そのおぞましい正体をはっきりと認識するまで