月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

舟出

夕陽に向かって
人生の岸辺を 小舟で出発しようとしている
漕ぎ方もわからずに
離れていく地に未練を残したまま


波はとても穏やかだ
けれど小舟をあちら側へと運んでいく
少しずつ 確実に
振り返る私を乗せたまま


色々あったと笑いながら水面を眺めるにはまだ若く
他の生き方もあったはずだと呪ってもいる人生を
十年、二十年、三十年かけて
諦観と平穏の大地に連れて行ってくれるのだろうか


波よ ゆるやかに

偽善者

誰にも愛されなかったなんて
あなたの胸に投げた
世間知らずの独りよがりに
憎しみが過ったの?


私を心配してるふりをして
寄り添う味方を装った
悪人のようにあなたを
周りは誰しもみなした


いたいけな君を騙してるみたい
俺を悪者のにしやがってと
忌々しげに爪を噛む
傷ついてくあなたの側面に
無責任にかばいたくなる私がいた


酷い目にあわされて
皆があなたを悪く私に吹き込んでいく
優しくしてやれやと女の人がいい
もう戻るなと男の人がいう


私が去っていくのを
引き留めたことは一度もなかったの
俺に関わったら自殺するんじゃないかと
危惧していたのは演技じゃなかった


自殺させた女の夢に苦しめられて
睡眠薬なしで眠れなかったよね
あなたの浮気で病気になった女の
未届けの婚姻届けや手紙やお揃いの湯呑みを
捨てずに私の部屋に保管していた


引き離されて熱が冷めれば
あなたを悪く思い笑いだすのを
きっとわかっていたんでしょう
私は親のもと安全圏にいて
あなたの飢えを理解できなかった


二月の澄んだ空のした
あなたはどうしていますか?
私はとうに忘れ去られて
出会わなかったことになっていればと願う


この澄み切った寒空のしたで

今夜もリフレイン


好きな歌をただ流し続けた
話すことが何もなくて
はるかに大人の微笑みを浮かべているあなたに
伝えること わかってほしいことなんて思い浮かばなかった
狭いワンルームで並んで座って
PCから流れる歌を二人いつまでも聞き続けた


歯ブラシを買えば頭を撫でて
バスタオルを買えば優しく笑った
カレーをつくれば美味しいと言い
不器用なのを承知で これアイロンかけておいてくれる、と


柔らかな時間にうっとりとして
堰を切ったように「わかってほしい」の大洪水は影を潜めた
この時がこのまま途切れない それだけを望んで
辛い過去の囚われ人だったのをいつのまにか忘れた


言葉は無意味で
悪い夢に首を振るのを察知してくれたあなたの腕枕ははるかに雄弁
やがてぽつりぽつりと穏やかに語られていくあなたの
別れた奥さんや 子供達の精算できない現状を
過去から救われた私は瞼を閉じて 夢物語のようにぼんやり聞いていた


わかってほしかったのは私も同じだったの
あなたはまだ過去から逃れられずにいて
それは私のようにまったくの感情的な問題ではなかった


生々しい現実は嫌いだと耳を塞ぎ目を閉じた
胸のうえに私の顔をのせて見下ろすあなたに
私はどんな風に映っていたのだろう


今も一人好きな歌をぼんやり聞いている
事情をひっくるめてあなたを愛せはしなかった
ただ好きなものに埋もれて共有してほしかった
ありのままの現実など過去などどこかに葬りさって