月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

必要な人

「千代子なんかなあ、十錠飲んだら死ぬ薬を飲んでたんだぞ!」
軽い安定剤を大事そうに扱う私に、彼は喚く
こうも言い足す
「ふん、デパスくらいで!俺なんか!」


『俺なんか』
彼が離婚で親権を獲られ、自殺志願になって、それから……
「俺のとこで買ったら激安なんだ。でもSさん、俺が自殺したがってたの知ってるしな」
Sさんはあなたの命なんてなんとも思ってないと思うわ
すかさず飛んでくる罵声が怖くて、私は心の中で呟く
彼を社会の底辺に追いやったSさんが心配してると思うのは彼の願望か


それでも彼はぶくぶくと太っている
「今年に入って20キロ太った。千代子が俺を独占しようとして飯を食わせようとして」
もう病院に入って姿を消した彼女の名前を彼は口にする
彼の違法駐車でアパートを追いだされ、精神を病んだ女の名を


「千代子さあ」
ふと思い出してファーストフードで注文を待ちながら私の方を振り返る
「Sさんが千代子の飯美味い美味いって。お前も練習しろよ」


あなたは否定するかもしれないけど、わかっていますか
あなたは千代子に情が湧いているんです
Sさんに憧れて地獄の果てまでついていこうとするけれど
そうなるには情愛を必要とするほどに弱い
そのことに気がついていますか


「君はどこか千代子と似ている」
「千代子と同じこと言う」
「千代子も大学を出ていて」
元売れっ子ホストの手管で女には困らないあなたが繰り返し名を呟く


汚い世界で生きてる彼に
必要なのは彼女で離すべきではなかった
世界の美しい側面ばかり見て育った
私に彼の必要な人にはなれない


彼を切り捨てても
生きるに値する 生きるのは美しいと願う私は