月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

すべてが終わったあとで

すべてが通り過ぎたあとで
真実を理解して哄笑が溢れ出る
彼は私を愛してなかったが
それどころか彼は私を馬鹿に


同棲していた女が心を病んで
それで彼は私のもとに来た
私への仕打ちは酷いもので
けれどその女にも
そんなものだったのだろうと


ある日私は人づてに知る
彼が「もう死んでくるわ」と
女と心中しようとしたこと
私が安定剤を飲んでいるのを
女が致死性のある薬を服用し
それに比べて大袈裟だと裏で


彼が女を愛していたか? さあ、それはわからない
わかるのはただ、彼にとって私は女に劣る存在だった


すべてが片付いたあとで
真実の蓋を開けて涙する
なんとも思われていなかった
その程度の恋でした

堕ちていく

彼の停めたベンツを追い越して、白のクラウンがキッと止まる。
彼は黙って左ハンドルの運転席を下りて外に出る。
Sさんがスーツのポケットに突っ込んでいた手でそのドアを開ける。
品物を見定めるような目つきで私を見る。
私はとっさに精一杯の笑顔を浮かべた。
「〇と申します。私まだよくわからなくて……よろしくお願いします」
はい、はい、とSさんは運転席から身を乗り出して大きく笑っていた。
挨拶が終わると同時に、Sさんは真顔になって車から降りていった。
本物は空気が違う。深呼吸をして肩を揉む。
Sさんが芋けんぴの袋を掲げてクラウンからこっちへ歩いてくる。
私の頭を撫でて手に袋を持たせた。
運転席に戻っていた彼が声を張り上げる。
「〇ちゃん可愛いでしょ!」
「可愛い、可愛い」
「僕がブスをSさんに引き合わせるなんて真似したらぶん殴ってくださいね」
ハハハ、Sさんはすぐ真顔になってクラウンに乗り込み発進した。
彼がその後ろをついていく。
閑静な住宅街の舗道沿いに二台、二人はそのまま車から降りた。
「会議なんだ。車を見張っていてくれ」
「えっ、ちょっ……」
Sさんはずっと遠くの事務所らしき建物に入っていく。
「しょうもないことで電話すんなよ」
彼が走って追いかけていった。
空はすっかり暗くなり、街灯が明るくなる。
挨拶だけで帰るつもりだった。
車番をさっそくさせられて、まずい状況ではないか
私は堕ちていくのか
この二台に何かあったらただじゃすまない
無事終わったら逃げよう
堕ちてたまるか……

愛を乞う彼


美貌だった。とても美しい人だった。カオリという、彼が引き合わせた本命の女は
しっかりしてた。人間のできた人だった。ユウコという、彼が付きあってた女は
とにかく優しかった。子供を奪われたシノブという、彼を好きだという浮気相手は


「カオリみたいな奇麗な子が、前は男に貢いでたんだぜ」
「惚れたっていうのは、弱みを握られたってことね」
クールな反応で予防線を張る
「俺を見てそう思うの?」
彼は小さく笑みをつくった。


「ユウコの家は団地だから住めないなあ。出ていく金も多いみたいだし」
バツイチ子持ちで昼も夜も働いているユウコさんのことを彼は愚痴った
「それに、あいつ俺と別れるって一度言ったんだ」
「別れるの?」
「また言われたらね。二度目を取り消す奴は信用しない」


「シノブは子供産んでいるから生活感あるけど、お前にはない」
人差し指を立てて誘発するような笑顔で彼は弾ける声を出した。
「ほら、メールきたぜ。あなたに私をプレゼントしたいですって」
「いいなあ、色んな人にもてて」
「妬かないの?平気?ねえ、本当に嫉妬しないの?」


「おかしい、俺になつかない。こんな女ははじめてだ」
「クールにハードボイルド気取りやがって」
「今いくら持ってる?貸して」
「俺のロボット」
「俺のこと嫌いなのは知ってるよ!」


・・・後年、彼との話を面白おかしく小説のネタにしたことがある
講師は男の悪を良く描けたと褒めたあとで付け足した。
「この男性は愛を求めていたと思います」


被搾取者の私は悲しくなって横を向き、クールにみせようとする
そんなの知ってるわ でも愛するわけにはいかなかったのよ
彼にとって無償の愛が愛だったのだから