月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

ある夜の思い出

「俺の女どもに、自分が一番よ
 自分が一番可愛がってもらってるのよって吹聴しやがって」
酒臭い息を吹きかけながら男が絡む


涙がポロポロ頬を伝う
おいで、と忍ちゃんが
私の首に手をまわして
スカート越しに
正座した脚の太腿のあたりに寄せ
泣いてうつ伏す私の背中を撫でた


「帰って。今どんな状態がわかってるの⁉」
男を撃退し、忍ちゃんは子供をあやすように歌う
眠れ 眠れ
窓際でガラス玉が黄色く光り
中で黒いセロファンの男の子と女の子が手をつないでいる
忍ちゃんが離婚相手に親権を離婚相手にとられた子供達
その姿の二重写し


35歳で死ぬと余命宣告を受けた彼女と私の28歳の物語

理由

こんな風に自分を晒して
こんな風に傷口を開いて
私は何がしたいの
自分を虐めたいの
違う
私は書くことで 書きながら探してるの
過去に固執するそのわけを


喋らなければ
書かなければ
誰も知ることはないし 知りたくもない
なのになぜ書く?


幾人かの過ぎ去っていった人々
彼か彼女らについて詳しいわけじゃない
ただ記しておきたいのだ
彼女の笑顔 彼の歪み 彼の傷 私の思い
忘れないうちに
私が忘れてしまわないように

Yes

「いつ死んでも同じ。死ぬ時は一緒に死のう」
私の知らないたくさんの汚いものを見て
私に教えないたくさんの汚いことをした
あなたはつまらなそうな顔でハンドルを握りながら言う


一度の性的蹂躙で壊れた私はその言葉で男にすがりつく
あなたの知らないたくさんの奇麗なものを見て
あなたに言わないたくさんの奇麗な思いをした
私は「人生は生きるに値する」とあなたに告げずに黙ってる


あれからどれだけの月日が経ったのでしょう
あなたの住む世界を抜け出た私は
何事もなかったように元の暮らしに帰り
SNSを開けば友達の
神に祝福されたような笑顔や子供、外国の風景の写真が並んでる
まるでフランクルの「それでも人生にYESという」かのように


あなたにとってそれは嫌味でしかない
私は消えて正解だったのだろう
世間知らず、と本音をぶつけられたあの日と同じでしかない


どうしていますか?
その問いに対する私の予測はとても言葉にできない
不吉な予感に心は絶えられず
この世界は汚いものだとあなたは死にたがっていた
一瞬の快楽を求めて金に女に楽することを選びながら


その一瞬が繰り返しあなたに訪れると願っています
そうすれば幸せな気分でいられるから
不吉な予感は閉じて
あなたはあの頃うまくいっていなかっただけだと
人生は生きるに値すると
生きることは美しいと
祈りを捧げて