月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

野苺

幼い春
小山の頂きにあるマンションから麓まで
草々で覆われた山肌の斜面に野苺
薄い赤 子供の指先で軽く摘まんで
棘が生えていた 薔薇にはおよばず
薄い味 勢いよく駆け下りていく緑踏んで
たんぽぽ摘んで 綿の実拭いて
白いふわふわがどこかに飛んでいくよ


大人の夏
体育館のステージの緞帳のような暗く重い赤
ベルベットのような生地に
黒い蔦が縁がギザギザの丸い葉をつけて
絡まっているノースリーブのワンピース
夏の陽が容赦なく照らし出す朝の街の片隅で
知らない男が 
どこかのマンションの階段のコンクリートで
服を埃で汚し皺くちゃにしました


そして同時に 野苺の記憶がどこかに消し飛んでいったのです