月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

今夜もリフレイン


好きな歌をただ流し続けた
話すことが何もなくて
はるかに大人の微笑みを浮かべているあなたに
伝えること わかってほしいことなんて思い浮かばなかった
狭いワンルームで並んで座って
PCから流れる歌を二人いつまでも聞き続けた


歯ブラシを買えば頭を撫でて
バスタオルを買えば優しく笑った
カレーをつくれば美味しいと言い
不器用なのを承知で これアイロンかけておいてくれる、と


柔らかな時間にうっとりとして
堰を切ったように「わかってほしい」の大洪水は影を潜めた
この時がこのまま途切れない それだけを望んで
辛い過去の囚われ人だったのをいつのまにか忘れた


言葉は無意味で
悪い夢に首を振るのを察知してくれたあなたの腕枕ははるかに雄弁
やがてぽつりぽつりと穏やかに語られていくあなたの
別れた奥さんや 子供達の精算できない現状を
過去から救われた私は瞼を閉じて 夢物語のようにぼんやり聞いていた


わかってほしかったのは私も同じだったの
あなたはまだ過去から逃れられずにいて
それは私のようにまったくの感情的な問題ではなかった


生々しい現実は嫌いだと耳を塞ぎ目を閉じた
胸のうえに私の顔をのせて見下ろすあなたに
私はどんな風に映っていたのだろう


今も一人好きな歌をぼんやり聞いている
事情をひっくるめてあなたを愛せはしなかった
ただ好きなものに埋もれて共有してほしかった
ありのままの現実など過去などどこかに葬りさって