月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

忘却

時間というのは不思議なものだ
あの夏の朝の陵辱の生々しい記憶を
それにより生じた心の隙につけこんだ男の仕打ちを
忘れようとせずとも私の中から少しずつ消し去っていく
そして20年経った今、こうしてすらすらと書いている
痛みもなく書ける瞬間があるのだ


あの夏から10年に渡り私は記憶に支配されていた
どんな風に?
なかったことにしてくれる救世主を求めて
耳障りのいいことを言う人 優しくしてくれる人
片端からすがりついた
彼らは例外なく私を何とも思っていなかった
それでもかまわなかったのだ
心の休まる暇を欺瞞でも与えてくれるなら
私を何も知らない小さな女の子のように扱ってくれるなら
忘れさせてくれるなら


たとえその結果傷が深くなるだけだったとしても


性的な陵辱により
私の足元はいつでも地面がなくなって沈んでいきそうだった
しっかり捕まるものがなくなったんだ
それで誰でもいいから優しくしてくれる人にしがみつこうと
良い人に救われる被害者もいる
私は違った 正反対だった
頭がおかしくなりそうで見抜く余裕はなかったし
ただしがみつかないとどこまでも落ちていきそうで
誰もいい人がいなかったのは私がその程度だからだろうと
けれど時間というものはどんなものも薄めていく
彼らは次第におぼろげになって思い出は薄れていくのだ


もう彼らの心ない言葉や大声、仕打ちは唐突に蘇らなくなっている
その代わり一緒にいて楽しかったことも
それでいいのだ
楽しかったこともある それがなんだというのだ?
人は楽しかったことより辛かった方が頭に刻み込まれる生き物だ
私は忘れる あなた方の言動を
すべてを消去しなければ傷つけられた心が癒されはしないから


問題はこれからどうやって生きていくかだ
私一人 このまま年老いていくにはまだ時間がある
割り切った振りをしたところで
時折あなた方が音声つきで脳裏を過るに決まっているのだから


せめて混乱と悲嘆でかき乱された頭を整理していこう
思い出さないこと そうすることでしか
私は純粋に私というものを確立できないのだから


私は私 しかし私とは何だろう?
心配ない それは誰もがうっすら感じている問い
根源的な問い


割り切れぬ気持ちを抱いて生きていこう
それが人の心なのでしょう
答えのない問いだけの人生を
私は生きていくのだ 過去を背負って