月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

ショートカット(痣)


腰の痣をメスで切り取る
麻酔の切れた状態で十数針、布団針を刺されるような痛みがささる
額や背中もびっしょりな私の頭から
医師が白いシーツを放るようにしてかぶせる


砂利のように嫌悪を悪意を投げつけられた
物心ついた頃には 幼稚園のビニールプールで
40年前 パンツだけを履いた子供達の群れのなか
汚いものを見る視線を浴びせられた


小学生になると体育の着替えの際に
二人組のクラスメイトがヒソヒソと
痣を指さして やはり汚物を見るような視線を投げかけた


メスで切り取ってしまえば
抜糸の跡もしばらくすれば消え
何事もなかったかのごとく
身も心もうっすらと傷跡が残るだけ


けれど忘れられない傷が刻まれている
黒い楕円形の印がまだくっきりと皮膚に浮かんでいたのを
初めて私を好きだと言って抱きしめてくれた男は
或る晩、電話で吐き捨てた
「あんたと俺が? なんのこと? けっ、おえっ、気持ち悪い」
虫の居所が悪かったのだろう 痣を示してはいないかもしれない
けれど本音には変わりない
思っていないことは口に出ないものだから


私は誰かを愛するのを無意識にやめた
ニヒリストだと 自信があるのだと 理想が高いのだと
好き勝手に人は言う
誰も知らない
誰もが知ってる
人は簡単に人を愛さなくなることを
自分が汚いもののように扱われた瞬間に