月美の卑屈を生きる詩

感情のおもむくままに

サイレンと骨

真夏の盛り
けたたましくサイレンが鳴り響く
子供だった私は机の下に潜り
一分間の黙祷どころではなく
激しく迫るサイレンの音に
ヘリコプターの音が重なると
落ちる 爆弾が落ちると
耳を塞ぎ瞼をギュッと閉じた


学校の近くにある団地の一角が
家賃が安いと同級生が言う
幽霊が出るからと
しかし実際に幽霊を見た者はいない
知っているのは朝礼で歌う原爆歌集と
夏休みの登校日に上映される原爆フィルム
生々しさを抑えた 先生の語り


通学路に防空壕がばっくり口を開けていた
あれから30年壕は土で塞がれたのか
中学校建設のために山を切り開いて
埋まっていたたくさんの被爆者の骨
運動場の網を超えた手つかずの斜面に
慰霊碑が建立された
あれから30年 取り壊されてはいないか
何が忘れられ 何が残った はるか遠い夏

窓越しに 旅先にて

飛行機窓から覗く街並みが
模型のように粒状になり遠ざかる
堕ちたら死ぬという高みを過ぎて
ちぎれ雲が現れ
それは足跡のない早朝の雪景色や
真っ青な空に次々と姿を変えていく
なんて表情の豊かな空


降り立った地を車で走る
どこまでも続く道の脇に白樺が
一糸まとわぬ姿で屹立している
黄、茶、緑のグラデーションの葉を広げる木々
えげつないほどの赤い紅葉
蔦まで燃えるような林


コンクリートの巨大な倉庫にも
からめとるように蔦がからまって
灰色の外壁に鮮烈に映える
あの陵辱の日に身に着けていた
ベルベット調の暗赤色の生地に
一面からまった
強烈な日差しに照らされ輝いた黒い蔦模様のように


溶けかけた雪をまたぐと
光沢のある湖が海のように横たわる
波よ静かに 美しさで私を包め

男は支離滅裂に自滅する

「三日が百日にも思えたことがある?」
ベンツの左ハンドルで夢見るような目つきで彼はフロントガラスの向こうを見つめる
助手席で私は生理的嫌悪感を抱きながら彼に視線を走らせる
芝居がかっていてあざといから
きっとバブルの頃ホストだった時に身に着けた女を落とすテクニック


「俺、貯金ゼロのお客から500万騙し取ったことあるぜ」
「好きって寄ってくる女が来ると、チッ、またかよって」
「金を取りたかったら、あったかい話に嘘を混ぜるんだ」
仲間だからと私に吹き込んでくる汚いやり口


なんでも喋るこの男は
それでも私が惚れていると高を括っているのだ
あまりに嘘をつきすぎてもはやわからなくなっているのだろう
自分にさえ嘘をついて 彼にとっての真実など歪み切ってもう探せない


「俺はもう終わってる」
「お前が幸せになるまで見届ける」
神も見放すだろうこの男は嘘と搾取で成功すると信じている


やがて男は自滅し、その前に私は黙って去るだろう